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現地駐在員のエチオピア回顧録

HOPE-JP • Nov 20, 2019

2年駐在して見えてきた国際協力の現場

ホープの事業地、そこは正に「ロストワールド」の世界

「Helping the Neglected Poor become Self-Reliant (支援の届いていない人々の自立への道筋を支援すること)」
これはホープの活動理念です。“Neglected” という単語には「ないがしろにされる・無視される」という意味があります。ホープはそのように世界から見放された地域の人々にも支援を届けようと活動を続けてきましたが、エチオピアの事業地ボンケ地区には、まさに世界から隔絶されたような光景が広がっています。

標高およそ3,000m。
日中でもやや肌寒く、歩いているだけでも息の上がるボンケ地区最果ての村々。ここには電気・ガス・水道・道路に至るまでインフラと呼べるものは一切なく、インターネットを使っている人もほとんどいません。住民の多くが昔ながらのかやぶきの家で暮らし、麦や芋をつくる農家です。農作物は地元の市場にも売りに行きますが、一般家庭の平均年収は16,000円ほどと、今でもほぼ自給自足に近い生活を送っています。

村に住み、事業を進めるということ

そんな村にホープ駐在員の近藤がやってきたのは2018年1月。
ホープはエチオピアで事業を行う際、必ず現地人スタッフをメインとした数名の職員を事業地に派遣し、スタッフは村に住み込んで事業を進めます。ホープスタッフはまず村の役場へ行き、村長にご挨拶、村にベースキャンプを立てることを了承してもらいます。近藤も役場の近くに自分の住むテントを建てることを許されました。これから2年間住むことになるテントと寝袋と小さな (大変重要な!) ソーラーパネルを設置し、ご近所の方々にもご挨拶に伺います。

聞いてみると村の人たちはホープの噂を以前から知っていて、いつかはこの村にも来てくれないだろうかと心待ちにしていたとのこと。村の方々は私たちを温かく迎え入れてくれ、その晩に村役場からお礼の品としていただいたのは、なんととヤギ1頭! その場で村最大のおもてなし生肉料理「ドルサ・コルト」にして振舞ってくれました。付け合わせは麦をおにぎりのように丸めた「ガブラ」という現地食。インフラも病院もない山奥の村で食べる生のヤギ肉はなかなか勇気のいる料理でしたが、村長自ら振舞ってくださったものを食べないわけにもいかず、お腹を壊しませんようにと祈りつつ美味しくいただきました…!
エチオピアでのホープの事業期間は原則2年です。長いようで短いこの事業期間内にやることはたくさんあります。
給水システム(簡易水道)の建設、学校や診療所の公共トイレの建設、建てた施設の維持管理を行うための体制作り、維持管理に必要な技術研修、保健衛生研修とフォローアップのための戸別訪問などなど・・・ 

現場では建設作業から人材育成に到るまで多岐にわたる活動が求められますが、全ての事業に共通して必要となる大切な要素があります。それが「村人とホープスタッフの信頼関係」です。

共に村で生きることで見えてくるもの

車でのアクセスも難しい僻地での事業展開にはたくさんの人手が必要です。例えば、水道建設用の資材を建設現場まで運び込むのも人力、数千人が住む事業地で各家庭を日常的に訪問するのもホープスタッフだけでは不可能です。保健衛生研修や技術指導においても住民の積極的な参加と協力がなければ始まりません。

だからこそ、ホープスタッフと事業地の住民間との信頼関係が事業の成功を大きく左右します。そのため、厳しい生活環境にも関わらずホープスタッフは事業地の村に常駐し、共に生活して事業を進めるのです。
ネットもSNSもなく、携帯電話すらほとんど普及していないこの村では、バーチャルでなくリアルの対話による信頼関係の構築が必要です。いくらホープを知っているとはいえ、住民からすれば部外者である私たちは、まず彼らに信頼してもらわなければなりません。村に住み、共に生活をしていく中で、信頼を得られなければ事業はそこで終わってしまいます。

また私たちは村に住み込むことで、信頼してもらうだけでなく、現場で本当に必要とされるニーズを見極める必要があります。村人の多くは先祖代々この村に住み、今もなお昔ながらの生活を続けている人たちです。私たちとは違う価値観を持っていたり、私たちが考える「彼らにとって必要なもの」を欲しているとは限りません。支援団体に必要なことは、彼らが「自立する」ために本当に必要なものは何か、それをどのような方法で現場に渡すべきかを、実際に現地に入って、感じ取り、実行することです。一方的な思い込みで、きっとこれが役立つだろうと始めた支援が思わぬ落とし穴にはまってしまい、逆に現地の生活や文化を壊したり、自立を促すどころか支援に頼る依存体質を植え付けたりしてしまうこともあります。

例えば、私の駐在したエチオピア南部の僻地では、安全な水がないことが村の発展を妨げる大きな障壁となっていました。しかし実際に村に住み、他の村々も見て回りわかったことは、単に水道設備があること以上に、その水道を維持していくための体制づくりの重要性でした。
どんなに頑丈な水道を作ってもいずれ不具合は出ます。そして街から遠く離れているこの地域に電話一本で駆けつけてくれる便利な水道屋さんもいません。
そこでホープは6ヶ月で完成する水道の設置後も、約1年半 現地に残るのです。その間、村人が自ら水道の維持管理をできるよう住民委員会の設置をサポートしたり、水利用料金を徴収する制度を作り将来的なメンテナンス予算を確保できるようにしたり、少しぐらいの修理ならできるよう修理の仕方を教えたり、もし自分で解決できない問題が発生した際に、助けてくれる行政組織とのコネクションを作ったりと、体制構築に力を入れています。住民がその必要性を認知して、自主的にそして積極的にこのような体制を続けていく意欲がホープの水事業には不可欠だからです。

「やってくれてありがとう」ではなく、
「一緒にできてよかった」と住民に言ってもらえるように

村に駐在し事業を見守る中でわかったこと、それはどれだけお金をかけても、どんなに良い事業プランを立てても、住民との意思疎通ができていなければ意味がないということでした。
私たち支援する側が事業の恩恵を受ける人たちのことをきちんと正しく理解できて初めて、開発事業は受け入れられ、住民が積極的に参加できる事業になります。そこで初めて一方的に支援を受けているのではなく、一緒に事業を作り上げていく一当事者としての意識をもち、作った水道も「誰かからもらったもの」ではなく「自分たちで守るべきもの」として認識します。
事業が終わり村を出る時、「わざわざ遠くから来てくれて、何から何までしてくれてありがとう」と言われるのではなく「ホープが来て一緒に事業を進めることができてよかった。もう後は俺たちに任せてくれ!」と言われるような事業作りができるようにと考えさせられます。事業を実施する団体とその恩恵を受ける人々という縦の関係で村人に接するのでなく、一緒に事業を進めるパートナーとして認識される存在になること、それが駐在員近藤が2年間想い続けたことでした。
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